ABCD Log - 2/2

 

「園児のズボンが盗まれた」
それを聞いたバルクモント・ラングウォルト先生は
豆菓子を齧りながら「またか」と呟いた。

 

本来なら昼食を食べている時間だった。
しかしバルクモント先生が口にできたのは豆一粒であった。
この映画のセレビィみたいな豆はクラックと呼ばれ、
味がしない上に、噛むのに苦労するほどに硬い。
しかし栄養価が高く、
激務のバルクモント先生の健康を陰ながら支えてきた。
バルクモント先生はクソ硬え豆を
口の中で転がしながら考える。
ズボン盗難事件の犯人について、
バルクモント先生には心当たりがあった。

 

 

このズボンを履いていない子供は、
アレックス=エーオニアンブルー。
クラスでも屈指の悪ガキだ。

 

日頃から、所構わず服を脱ぎ散らかし、
パンイチで走り回っているロックなガキだ。
なので、バルクモント先生は
「犯人は十中八九アレクだろうな」と思った。
犯人に目星をつけた所で、
「もこっ……」という柔らかい擬音に気が付く。
そちらを見やると、
ズボンだけでなく上着も剥ぎ取られた
パンイチ園児の姿がそこにあった。
このふわふわ毛糸のパンツの子供はコルネ・コルムバ。
調和を愛し、他者を理解することに喜びを感じるガキだ。
アレクのいたずらを笑って許しがちな彼だったが、
この時ばかりはさすがに困り散らかしていた。

 

バルクモント先生は
「なら、でいもこの騒動に巻き込まれているな」と思った。
その時、「ンナ」という鳴き声が耳に入った。この「ンナ」と鳴く子供は綺晰でい。
何考えているのかよく分からない、謎の多いガキだが、
「どうせ何も考えていないんだろう」と高を括っていたら痛い目に遭った。
それ以降、要注意ガキとしてマークしていた。
よく見ると、でいはパンツを履いていなかった。
それを指摘すると、
でいは「ンナ!?」と鳴いて狼狽えた。
どうやら気付いていなかったらしい。
酷なことをしてしまった……。

 

 

事情を聞いているうちに時間が経ち、
やがてアレクがでいのパンツを持ってやってきた。
よくもまあ、堂々と姿をあらわせたものだ……。
そうだな、それはでいのパンツだな
それでアレク、二人のズボンはどこにやったんだ
わかったわかった、デルタの国旗が入ったパンツだな
わかっ
わかったから
いい加減にしろ

 

この時バルクモント先生は
セミの死骸を見せにくる猫を連想していた

 

 

 

 

バルクモント先生は知っている
このガキどもが揃いも揃って泣いている時、ろくでもないことしか起こっていないと
昼食の時間が削られ、豆粒一つ口に放り込んで仕事に励む羽目になっても
パンツとズボンを失い、
園児たちから「ぞうさんだ……」「もうおこったぞうだ……」と
囁かれることになっても
その日、人類は思い出した─
みたいなことになっても
なんだかよくわかんないことになっても
園児がズボンを履いていなくても

 

バルクモント先生の戦いはこれからも続く──

 

彼らが無事に、
卒園の日を迎えるまで!!

 

 

 

 

Special Thanks
幼稚園のみなさん
黒井・りえこ・辿条
(敬称略)

 

 

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2021-04-29